蛮茶菴

フォト・エッセイ ごまめの歯ぎしり
<< June 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 高階秀爾著『日本人にとって美しさとは何か』 2/3 jeudi 16 juin 2016 | main | 『影の外に出る』(片岡義男著 NHK出版) mercredi 22 juin 2016 >>
# 高階秀爾著『日本人にとって美しさとは何か』 3/3 vendredi 17 juin 2016
■基準とは
日本語に「うなぎ文」といふ問題があります。この「うなぎ文」なる問題を引き起こしたのは、森有正( 1911 - 1976 )だと記憶してゐます。いま森有正を知る人がどれくらいゐるのかわかりませんが、一九六〇年代から七〇年代にかけて、その著書『バビロンの流れのほとりにて』『遥かなるノートルダム』『旅の空の下で』などで知られた哲学者、著作家でした。

この「うなぎ文」ですが、この問題は本来日本語論そのもののはずです。しかし、ここに都合のよい比較論が持ち込まれ、優劣論に取つて代はられてゐます。優れたとする外国語の基準を持ち込み、比較照合し、それによつて裁断し、問題を結論づける、そこに問題があるのだと考へます。

20160617
   < ものの見方 その一 >

■あるがまま
昨年みすず書房から出版された『セザンヌ』(みすず書房)の扉に、つぎのやうな献辞ーー要は人に価値を与えることだ。どんな人物であれ、ただあるがままにーーがあります。「うなぎ文」もかういふ観点から考へる必要があるのではないでせうか。ひとつの文法基準を絶対視する、だから、かういふ問題が生じるのだと思ひます。

また『セザンヌ』の包み表紙の裏を見ると、セザンヌが語つたとされる言葉ーーお若いの、どうして君にはそんなに遠くに見えるのかね、あのサント=ヴィクトワールが、絵のなかで主要なことは正しい距離を見つけ出すことだーーがコピーとして使用されてゐます。

このコピー文はなにを語つてゐるかといへば、「遠近法に則れば、君の描き方は正しい。しかしわたしにとつては、遠近法の距離ではないわたしの独自な距離があり、わたしにとつては、そちらのほうがもつと重要なのだ」といふことになるでせう。この言葉から、すでに伝統的な遠近法の支配から抜け出してゐたセザンヌの存在が見えます。

■比較優劣論とは
比較の優劣論は元来恣意的です。時代の主流・フレームワークそのもので、その時代に絶対的な力を発揮します。しかし時間を経るとその恣意性は明らかになり、その影響力もなくなり、単なる流行遅れなものになつてゆきます。ファッションのやうに、時代を支配して、影響を及ぼしたものが、過去のものとなると、野暮つたいものに思へるやうになるのとおなじです。

20160617
   < ものの見方 その二 >

『日本人にとって美しさとは何か』は、そのまえがきで「複眼の視点による日本文化論」とうたつてゐます。この複眼の視点は、優劣論の複眼の視点ではなく、あくまでも多面性、独自性、特異性、相違性を尊重する複眼の視点です。比較のための優劣論の視点ではありません。そこがこの本を本たらしめてゐるところです。

話は変はりますが、高校時代国語のテストに太宰治の作品を五つ書きなさい、といふ問題が出たことがあります。当時は、文学に対して、個人的に偏見をもつてゐましたから、本など読みもしませんでした。だから、とうぜん何も知りません。しかし耳学問から「シャヨウ」といふ音は知つてゐました。答案用紙に書くにはカタカナではかけませんから、思いついた漢字を書きました。源氏鶏太( 1912 - 1985 )の作品ならいざ知らず、こともあらうに「社用」と書いたのです。高校時代の個人的な爆笑譚です。

■日本の知識の程度
日本では学校教育にかぎらず、知識の程度はクイズの正解程度のものです。東京駅の設計者といへば辰野金吾、それで、わたしたちはすべてわかつたつもりになり、満足して、それから先には行こふとしません。これでは何も生まれません。しかしこの本の「東京駅と旅の文化」などを知ると、学ぶ意欲を惹き起こされます。これが知識といへるのであつて、先ほど引き合ひにだした高校のテスト問題などは、なんの役に立たない、たんなる物知り人間を作るためだけのものでしかありません。学校のテスト問題は今日もその本質は変はらないでせう。

20160617
   < 一筋縄でいくものなんかない >

さういふ情報で満足する人たちにとつては、この本は読みにくく、避けたくなるかもしれません。しかしさうでない人たちにとつては、この本は刺戟に満ちた、日本の文化を知る、ひいては自分を育(そだ)て、育(はぐく)んでくれた文化環境を知り得る大切な本になるでせう。




| comments(0) | trackbacks(0) | 17:29 | category: 覚え書 |
# スポンサーサイト
| - | - | 17:29 | category: - |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://ya-ban.jugem.jp/trackback/2744
トラックバック
Categories
Archives
Profile
Comments
  • いいな、と思ふその瞬間、それが写真のいのち jeudi 7 juillet 2016
    蛮茶菴 (07/09)
  • いいな、と思ふその瞬間、それが写真のいのち jeudi 7 juillet 2016
    Genkikun (07/08)
  • 卵を孵す鳩 vendredi 10 juin 2016
    蛮茶菴 (06/11)
  • 卵を孵す鳩 vendredi 10 juin 2016
    Genkikun (06/10)
  • 恩恵に感謝しながら dimanche 14 fevrier 2016
    Genkikun (02/16)
  • 夏の夜、東京湾架橋レインボーブリッジを歩く samedi 15 aout 2015
    蛮茶菴 (08/17)
  • 夏の夜、東京湾架橋レインボーブリッジを歩く samedi 15 aout 2015
    Genkikun (08/16)
  • 紅茶は受皿に移して飲むもの?? jeudi 23 juillet 2015
    蛮茶菴 (07/26)
  • 紅茶は受皿に移して飲むもの?? jeudi 23 juillet 2015
    Genkikun (07/23)
  • 續・里芋が吸ひあげてできる水滴 mercredi 17 juin 2015
    蛮茶菴 (06/19)
Trackback
Mobile
qrcode
Search this site
Sponsored Links